1956年 晩秋の京都駅の一日(完結編)

星の数ほどある国鉄列車番号のトップナンバー、下り1レ「特急つばめ」は、午後3時52分、定刻通りに入線してきた。この10分前に到着する、3001レ「特急さくら」は見逃してしまったようだが、両列車からの降車客でホームはひどくごった返している。京都は今が最後の紅葉の時期とあって、観光のピークを迎えている。そのため外国人観光客も多く、そのほとんどが、列車後方の特別二等車や一等展望車から降りてくる。戦争が終わって10年以上が過ぎようとしているが、いまだに彼らの意識の中には占領軍としての優越感が強く残っているに違いない。

さて、つばめ号も発車してしまったし、これからは夕方以降にならないと上り下り両線ともに見るべきものはない。定期的にやってくる普通電車と、中長距離の普通列車の繰り返しが続く。
とそこへ見慣れない編成の列車が上り2番ホームにやってきた。鳥栖発東京行き48レ「荷物専用列車」である。現時点での定期運転としては、上り下り各2本ずつしかないが、日本経済の飛躍的な発展とともに、今後、こうした列車も次第に増発されてくるのだろう。編成美とは無縁ながら、ばらばらの形式の荷物車を、少し離れたホームから眺めるというのも、また一興である。

つい、ホームのベンチで居眠りをしてしまったらしい。考えてみれば、昨夜の夜中から一睡もしていなかったから無理もない。もう陽はとっくに落ちて、時刻は6時を回っている。突然、空腹を覚えたので、駅弁売りを見つけて弁当を食う。明治時代以来京都駅を仕切っている、東洞院七条の「萩の家」謹製だ。

さて、これから今日最後のショータイムが始まる。弁当を食ってる間にも、下りの「急行なにわ」と「急行阿蘇」、さらに富山からの504レ「急行立山」が立て続けにやってきた。
その後も下り線は、7時2分の「急行西海」、22分の「特急はと」、43分の「急行高千穂」と忙しい。西海号には、先頭の荷物車が明らかに軍用と思われる改造が施されているのが印象的だった。朝鮮戦争終結してなお、米軍は今も佐世保基地から軍事物資を運び続けているに違いない。また、同じ東京発の下りであっても、早朝にやってくる急行群と、この夕方の時間帯にやってくるそれとでは、乗客層がかなり違うことも面白い。前者は寸暇を惜しんで仕事する、第一線のサラリーマンが圧倒的に多かったのに対して、後者は、同じ背広・ネクタイ姿でも、どこか余裕がある。明らかにお忍び旅行と思われる、年齢のひどく離れたアベックが多いのも、この時間帯の急行列車の特徴だ。

その後は、京都仕立ての「急行天草」が入線し、6両もの荷物車に大量の荷物を積み終える頃になると、今度は上りが俄然忙しくなる。

8時になった。
いよいよ今日最高のショーが上り線で始まる。
まずは、トップバッター、鹿児島発東京行き44レ「急行さつま」だ。これも二等AB寝台、二等C寝台・座席、2両の特ロに二等車が1両、食堂車に三等寝台、と華やかであるが、これら優等車の大半は、途中の博多から連結されたものであろう。博多までの九州内では、結構地味なのだ。
さつま号が14分という比較的長い停車時間を取っている間に、突然、蒸機のブラストが聞こえてきた。長旅を終えたかもめ号の、ご帰館である。今日の先頭機は、やはり赤いナンバープレートを付けたC62だ。同機は、客車を切り離すと、中央の貨物専用線を通って、そそくさと機関区の方に帰って行ってしまった。そうか、デルタ線には、C62は入線できないのだ。

かもめ号の次は、9時9分の「出雲」、25分の「瀬戸」、37分の「彗星」、49分の「筑紫」、さらに10時台に入って、7分の「明星」、19分の「安芸」、45分の「銀河」とまさに名列車のオンパレードである。さすがに深夜11時台となると、8分の「月光」、40分の「日本海」で、本日の豪華列車ショーの打ち止めとなる。

この時間帯での一番の見どころは、上りの出雲号と下りの霧島号、もうひとつ、上りの明星号と下りの玄海号がそれぞれ京都駅に同時入線している時間帯である。上りと下りで優等列車のピーク時が微妙にずれる京都では、早朝の上り雲仙号と下り瀬戸号と合わせて、この3回、6列車だけが同時に離合する瞬間を見ることができる。

上記の列車のうち、日本海号を除く各急行列車は全て翌朝東京に到着するが、各列車ともに、これから東京に出て一旗揚げようという、ぎらついた目をした野心溢れる若い男女が多い。昨今、なにがなんでも東京に出なくちゃ、という社会風潮が日本全体を覆っているのだ。

さて、いよいよ、「急行日本海」が発車した後は、日付が変わった0時16分、門司発東京行き112レ普通列車と、27分の同じく門司からの荷物専用列車の発着を見て、京都駅を後にしようと思う。

112レの車内もまた、さきほどの急行群と同様、人で溢れ返っているが、やはりこちらの方がより雑多な人種で構成されていることは言うまでもない。
さて、すっかり人の気配の消えた0時38分。東京行きの荷物列車がひっそりと発車していくと、京都駅はつかの間の眠りにつく。その数時間後にはまた、今日と同じ運行が休むことなく繰り返されるのだ。

それにしても、何て素晴らしいマンネリズムなのだろう!



おわり(です。長々と駄文にお付き合いいただきましてありがとうございましたw)

なお、この駄文は私自身のかすかな記憶を元に、いい加減な検証のまま、出鱈目に書きなぐった妄想に過ぎませんので、事実と異なる記述があったとしても、一切の責任を負いませんので悪しからずご了承くださいませwwwww