1956年 晩秋の京都駅の一日(その4)

さて、今度は上り線が主役たちの場となったが、8時45分に霧島が発車してから34分後の9時19分。西鹿児島発東京行き36レ「急行高千穂」が1番ホームに入線してきた。7両もの三等座席車を先頭から連ね、後方に食堂車や二等、三等寝台、二等座席車、しんがりが荷物車という構成。この列車は以前、「急行阿蘇」や「急行玄海」と併結して運用されていたが、今年から晴れて独立列車となった。名前もひらがなの「たかちほ」から漢字に変更されたようだ。この列車のロングランぶりは強烈だ。西鹿児島を昨日の朝10時50分に出発し、まる24時間近く掛けて、今、ようやく京都に到着。さらに東の東京を目指すのだ。

高千穂号が出発した、僅か5分後の9時35分。あの列車がとうとうやってきた。
先日の、東海道本線完全電化で紙面を賑わせた、いま日本での一番のスター、誰でも知ってる、あの、EF58率いる2レ「特急つばめ」である。
これまで電気機関車の色と言えば、茶色、と決まっていたものだが、なんという斬新かつ、モダンな色だろう。今日のつばめ号は、機関車の鼻先に白地のヘッドマークが付けられている。機関車もどこか偉そうな顔つきに見えるのが面白い。肝心の後続車両のことも忘れて、この先頭の機関車にしばし魅入られてしまった。
早くも発車ベルが鳴り響いている。なんてことだ、これじゃまったく車両の見分なんかしている時間はない。

つばめ号は、2分間という短い停車の後、あっと言う間にホームを滑り出し始めた。こうなれば、最後尾の展望車だけが最後の狙いだ。と思った直後、走り去る何両かの車両のなかに、こげ茶色のものが混じっているではないか。あっけに取られている私をあざ笑うように、独特のオーラを放ちながら、つばめ号はぐんぐん速度を上げて、東の彼方へ走り去ってしまった。

この後も、上り線は忙しい。9時59分には、佐世保発東京行き34レ「急行西海」、10時39分には。熊本発東京行き32レ「急行阿蘇」が順に到着する。またこの2列車の間を縫って、姫路や大阪からの中長距離普通列車が到着する。その後、11時9分に大阪発金沢行き505レ「準急ゆのくに」が入線すると、上り線の豪華列車ラッシュはひとまず落ち着く。ただし、午後になって1時5分に、「特急はと」の入線があるため、これは見逃せない。

一方の、下り線はというと、豪華列車ラッシュが済んでしまって、いたってのんびりしたものだ。定期的にやってくる神戸行きの普通電車と、時おりの長距離普通列車の繰り返しが夕方近くまで続く。後は、これまた頻繁に2、3番線を通過して行く、長大な貨物列車が目を楽しませてくれる。牽引機は、完全電化後とあって、EF15や最新鋭のEH10も時折り現れるが、まだまだ大型の蒸機も頑張っている。比較的短距離輸送の貨物は蒸機が、関ヶ原の難所を越えて行く中長距離の長大編成には、EH10を主力とする最新電機があてがわれているのだろうか。

ここで少し時間的な余裕があるため、1番線ホームの端にある山陰線や、一番南の奈良線、さらにその南西に隣接する奈良電鉄などもチェックしておこう。

山陰線は、ここ京都から、遠く下関まで延びる、我が国でも有数の長距離路線であるが、裏日本を走るという性格上、他の路線に比べて何かと不遇を囲ってきた。電化はおろか、複線化計画も現時点では一切ない。優等列車では唯一、先ほどの出雲号が走っているが、これは大阪から福知山経由であり、京都駅の山陰線としては無関係の列車である。あとは1往復の準急と他はすべて普通列車、と極めて地味である。
また、長距離列車が多いだけに、まだまだ蒸気機関車による運行が主体である。

今朝がた京都を出発していったかもめ号も、C59型蒸気機関車が牽引していたし、先日までつばめ号の先頭に立っていたC62型も依然、健在だという。東海道が完全電化されたとは言え、京都以西では。まだまだ梅小路機関区の役割は大きいのだろう。

さて山陰線に話を戻そう。
この「本線」の昼時は、実にヒマである。発車する列車は、せいぜい1時間に1本、へたをすると2時間に1本というお粗末さである。編成は、だいたい2本に1本の気動車列車(キハ10系、20系)と、60系客車、オハ60やオハ61が主体で、中には17m級の旧式客車も混じっている。牽引する機関車は、梅小路のC51型が中心で、時おり、福知山や和田山のC57型等もやってくる。来年以降は、現在、試作開発中の新型ディーゼル機関車が投入されるらしいが、ディーゼル機関車で山陰線の、木材を中心とした重量貨物を牽引できるのかどうか、見ものである。

続いて、奈良線に回ってみた。
奈良線命名されるように、確かにこの線は奈良市に到着はする。しかし、正確には「奈良線は一度も奈良県内を走ることがない」のである。奈良の一つ前の木津駅(これは京都府)から、「関西線を利用して」奈良市に入るのである。
また、奈良線は、同じく京都駅から発着する奈良電気鉄道(奈良電)と激しく競争してきた歴史があり、全国的にも気動車の投入が比較的早かった路線であり、旅客列車はすべて、気動車によって運行されている。確かに、少しうらびれた奈良線ホームには、3両編成のキハ10系が発車時間を待っている。

つづく(でしょう)