高倉橋にて

先日、ふと思い立って高倉橋までクルマを走らせた。

高倉橋とは、JR京都駅の東側にあって、駅によって南北に分断された京都市内をつなぐ重要な「跨線橋」であり、一方、鉄道ファンにとっては古来、京都駅構内を一望に俯瞰する、絶好の「見学ブリッジ」として重宝されてきたに違いない。

もし神がタイムマシンなるものを与えてくれ、かつ24時間の猶予をくれるなら、私は躊躇なく、1960年5月末日の午前0時の「この場所」、に降り立つことを希望するに違いない。そこにありったけの種類と数の記録機材と資料を持ち込み、そしてなによりも己の五感を研ぎ澄まして、「この場所」に仁王立ちするのだ。

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気がつくと眼下には、照明灯で煌々と照らされた機関車転向給炭給水所と京都客車区が広がっており、空想通りの現実に驚きを隠せないでいる自分がそこにいるではないか。
次の驚きは、手に持った当時の時刻表と寸分たがわずにやってくる、上り下りの各列車についてであろう。これまでの限られた資料と想像を元に、せっせと作り込んできた「私の列車の本物たち」が、引きも切らずに往来しているのだ。この際、それぞれの列車編成だの車番だの、細かいことは記録機材に任しておこう。そんなことよりも、自分の目と耳と鼻で、この究極の臨場感を味わうのだ・・・・

ふと我に返ると、再び現実の世界がそこにあった。きらびやかな新駅舎の明かりとライトアップされた京都タワー、そして眼下を時折往来する、何の変哲もないJR電車群・・・。そう、もうここには私の足を引きとめ続ける「何か」、はなにもなかった。