1956年 晩秋の京都駅の一日(その5)

そうこうしているうちに、午後1時近くになっている。そろそろ、4レ「特急はと」の到着時刻だ。

1番線ホームの、乗車口が示された場所には、いずれも着飾った上品そうな乗客が、三々五々、はと号の到着を待っている。やはり平日の昼下がりに、特別急行列車で東京方面に向かう乗客は、まだまだ一握りの存在でしかないのだろう。仮に、特急はとの特別二等車で京都から東京に行く場合と、普通列車の三等車で行く場合の料金は、前者が3,440円、後者が840円。ちなみに、展望車を希望するならば、一気に6,160円(いずれも片道大人1名)となる。
上下格差は最大で、なんと7倍強もあるわけだ。

今朝がたの「特急つばめ」と全くと言っていいほど同じスタイル、同じオーラを放ちながら、「特急はと」が入線してきた。辺りからは、やはり同様のざわめきや歓声が上がっている。さっきは先頭の機関車にばかり気を取られていて、後方に連結されている優等車両をほとんど見ることができなかったので、今回はあらかじめ、6号車の停車する付近まで移動を済ませていた。さっそく、優等客車を中心に観察を始める。
6号車は、従来のスロ60型からスロ54型に取り替えられている。スロ54型は、スロ53型を近年になって改装したことにより、形式が変わった。車内は新型の蛍光灯に取り換えられ、冷房装置も取り付けられたが、今日のように晴れた昼間の、しかも秋の終わりとあっては、さすがの両最新装備の恩恵はない。

特別急行列車の、しかも二等車という贅沢な車両を、食堂車を挟んで5両も連ねているにも関わらず、二等車車内は京都でほぼ満席状態となった。乗客は皆、一応に着飾った身なりをしてはいるが、国鉄広報が出している宣伝広告のごとき、俳優・女優やモデルのような顔ぶればかりでは、決してない。これが現実というものだ。

最後尾には、やはり展望車が連結されていたが、先ほどのつばめ号のような古風なものではなく、こちらはずっとモダンな感じである。しかも、今日のはと号の方は、機関車から最後尾まで全車両が淡緑色で統一されており、編成的にもさらに美しい。

と、見とれていたら、知らぬ間に列車はホームを滑り出しはじめている。他の列車では日常茶飯事に見られる、飛び乗りの光景も、さすがにこの手の列車では見かけないものだ。

はと号が発車していった20数分後、やはり今年の時刻大改正で新規に投入された、12レ「急行なにわ」が入線してきた。この列車の目新しいところは、東京―大阪間だけの急行であるにも関わらず、つばめやはとと同様、食堂車を有する昼行急行なのだ。もちろん、展望車も5連もの二等車も持たないが、言ってみれば、廉価版「つばめ」「はと」というところだろう。それを反映してか、三等座席車がなんと9両も連結されている。

まだ昼を過ぎたばかりの1時35分に、なにわ号が発車して行くと、ここから2時間以上、上り線下り線ともに、見るべきものは特にない。

そうだ、梅小路まで足を伸ばしてみよう。

つづく(ぞ)